(出囃子)
(枕)
えー、毎度ばかばかしいお笑いを一席申し上げます。
世の中には「怖いもの」というのがございますな。幽霊、高所、あるいはスプリントレビュー。人それぞれ怖いものは違うもんでして。
(本編)
ある日のこと、いつものアジャイルコミュニティの常連たちが集まって、酒を飲みながら「何が怖いか」という話をしておりました。
「おい、お前は何が怖い?」
「俺か? 俺はAckyさんだな」
「えっ、Ackyさん? あの人はニコニコして楽しそうじゃないか」
「それが怖いんだよ。あの無邪気な顔をして、とんでもなく鋭いことを言ってくるだろう? 『なんでそうなんですか?』って純粋な目で聞かれると、心臓が止まりそうになるんだ」
「なるほど、無邪気な鋭さか。お前はどうだ?」
「私はびばさんですね」
「びばさん? 優しい人じゃないか」
「いやいや、ふりかえりの時だよ。あの人が腕を組んでこっちを見てると、『それ、本当にKPTですか?』『本当に問題に向き合ってますか?』って厳しいことを言われそうで……背筋が凍るよ」
「違いない。そっちの隅で震えてるお前は?」
「……お、俺は、のりっくさんだ」
「のりっくさん? 何されたんだ?」
「何もされてねぇ。ただ……存在が怖い。そこにいるだけで圧倒されるオーラがあるんだよ」
みんなが「あるある」と頷いている中、一人だけ涼しい顔をして茶をすすっている男がいます。
「おい、さっきから黙ってるが、お前には怖いものなんてねえのか?」
「へっ、Ackyさんだのびばさんだの、そんなもんが怖くてエンジニアやってられるかってんだ。俺にゃあ怖いもんなんて何もねえよ」
「強がりを言うなよ。本当はあるんだろ?」
「ねえよ。phpカンファレンスだろうが、XP祭りだろうが、testingOsakaだろうが、どこへでも行ってやるよ」
「へえ、気に食わねえ野郎だ。じゃあ、本当に怖いものはないんだな?」
男は少し言いよどんで、ガタガタと震えだした。
「……実は、ある」
「ほら見ろ! 一体何が怖いんだ?」
「……きょんさんが、怖い」
一座は顔を見合わせた。「きょんさん?」
「ああ……きょんさんは怖い。いろんなところにいて、なんでも知ってるんだ。アジャイルも、テストも、プロダクトマネジメントも……すべてお見通しだ。それに、批判的な意見もすごく率直に言ってくるだろう?」
「まあ、確かに鋭い指摘はするな」
「しかもだ! 優しい口調で教えてくれるんだよ。みんな尊敬してる。尊敬してるんだけど……本当に怖いんだ! あの笑顔で『ここはこう考えるといいですよ』なんて言われると、自分の底の浅さを見透かされたようで……ああ、思い出しただけでスクラムフェスに行くのが怖くなってきた! もうダメだ、俺は向こうの部屋で布団かぶって寝る!」
男はそう言うと、隣の部屋へ逃げ込んでしまいました。
残された連中は顔を見合わせてニヤリとしました。
「へへっ、あいつ、きょんさんが怖いと言い出しやがった」
「いつも偉そうなこと言ってるからな。ここらで一つ、目にもの見せてやろうじゃないか」
「どうするんだ?」
「決まってるだろ。あいつの部屋に『きょんさんの登壇動画』を流し続けて、枕元には『きょんさんの書いた記事』を山積みにし、極めつけに『きょんさん本人』をZoomで繋いでやるんだ」
「そいつはひでえ! 早速やろう!」
連中は手分けして準備を整え、男が寝ている部屋にきょんさん(の知見)を充満させました。
そして、Zoomをオンにする。
「……ん? なんだこの気配は……」
男が目を覚ます。
「うわあっ! きょんさんだ! こっちにはアジャイルコーチのきょんさん、あっちにはシステムアーキテクトのきょんさん! 画面の中からもきょんさんが話しかけてくる!」
外で聞いている連中は「ざまあみろ」と大笑い。
「ほら、怖がってる怖がってる!」
ところが、部屋の中の様子がおかしい。
「あぁ、怖い! なんて鋭いフィードバックだ! 怖い! ……でも、この指摘は的確だ。うまい!」
「うわあ、こっちのサーベイの結果も怖い! 怖いけど、腹落ちする! 栄養になる!」
「もっとないか! もっと怖い話はないか!クリストファー・アレグザンダーは、質と生命力が宿る「構造」を追求し、その本質を追求する15の生命特性を定義したんだ!それを実現するためにパタン・ランゲージという生成的なプロセスを提唱して、このプロセスを通じて、小さな変化を積み重ね大きな変化を起こし、人間が良いと感じる「生き生き」とした「構造」に宿る真の秩序を創出していると主張している!この思想は、ソフトウェアデザインパターンという考えを発端として、XPをはじめとするアジャイル開発の源流となる考え方に大きな影響を与えたとされているんだ!こういった背景を踏まえてきょんさんはパタンランゲージの現代化が継続的に起こっているグローバルなトレンドを追いつつ、それをソフトウェア工学界隈で上手く扱う必要があるという問題意識を説き続ける第一人者として、啓蒙している。ああ、この知見の深さがたまらなく怖い! 私の解釈だと、アレグザンダーは「普遍的な質(善いものといえるかも)」「生命のような生成する何か」そしてこれを人間として、実践的に「作る」ことをパターンとしてあくまで実践的に残したことは、今後我々がさまざまなシステムを作っていく、あるいは品質文化というものを考えるにあたって示唆的なものだと思うんだ。ただ、私自身はまだ腹落ちせず、現実に当てはめて考えられていないところがあって、すごく難しいと感じています。そうやってきょんさんのブログとか見ると、何年も前からnature of orderを読んでたりして、きょんさんの底知れなさには感服するしかないと感じてむしゃむしゃ(知識を吸収する音)」
外の連中は驚いた。
「おい、あいつ怖がってるふりして、きょんさんの知見を吸収してやがるぞ!」
「騙された! あいつ、本当はきょんさんの言ってることが大好物なんだ!」
連中は腹を立てて、部屋の戸をガラリと開けました。
「おい! 貴様、きょんさんが怖いなんて嘘をつきやがって! 俺たちを担ぎやがったな!」
男は満足そうな顔で、パンパンになった頭(知識)をさすりながら言いました。
「へへっ、あまりに学びが多くて、つい夢中になっちまった」
「この嘘つきめ! お前が本当に怖いものは何なんだ!」
男はニヤリと笑って、こう答えました。
「このあたりでそろそろ、nacoが怖い」
(おあとがよろしいようで)